新型コロナウィルスで事業所の家賃はどうなるのか??  その2 ~2020年3月末までの契約~

こんにちは。
万和(ばんな)法律事務所の福本隆史です。

新型コロナウィルスの影響で,家賃の減額交渉を受けた・受ける可能性のある大家の方,減額交渉をしたいテナントの方に向けて解説をしています。

ここで記載していることはあくまで解釈の一般論だとか私見も含まれています。個別具体的な事例によって結論も異なり得ることをご了承の上,読み進めて下さい。

まず見るべきは契約書なので,そのチェックが済んでいない方はまずこちらへ。
その記事にも書きましたが,契約書に家賃の減額について記載していないことが大半だと思います。
その場合は,民法のルールに従って判断されます。

契約日の確認

まずは,契約日を確認してください。
大抵,契約書の末尾に契約日が書かれています。
契約日の記入がない場合もありますが,その場合,双方の印鑑が揃った日になります。

新民法の施行日が2020年4月1日なので,それより前かそれ以降かによってルールが異なってきます。

これ以降は,2020年3月末までに締結された賃貸借契約について説明させて頂きます。

賃借物の一部が「滅失」した場合は賃料の減額を請求できるとの規定

民法には,次の規定があります。

第611条(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
1.賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2.前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

旧民法第611条

この規定は,賃貸物件の一部が物理的に無くなってしまった時に,使えない度合いに応じて賃料の減額を求められるというものです。ただし,賃借人がある部屋に保管していた物の管理が悪く,その部屋自体が使えなくなった等の「過失」がない場合に限られます。

今回の新型コロナウィルスは,「滅失した」とまではいえないので,この規定をもとに減額の請求は難しいと考えられます。

危険負担という考え方

次に,他に民法にはこのような規定があります。

第536条(債務者の危険負担等)
1.(一部略)当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2.債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。

旧民法第536条

契約当事者のうち一方が,自分も相手もどちらのせいでもなく(不可抗力で)自分が負っている「債務」を果たすことができなくなってしまった場合は、その相手方に対しても相手が負っている「債務」を果たすことを求められなくなるとする原則をこの条の1.(1項といいます)は定めています。

そして,この条の2項は,例えば,使用収益をさせる権利を有する者(=債権者。つまり,テナント側)のせいで,債務(=テナントの使用収益をさせること)を果たすことができなくなったとき,債務者(=大家側)は反対給付を受ける権利(=家賃を貰う権利)を失わないとされています。また,逆に,家賃を貰う権利を有する者(=債権者。つまり,大家側)のせいで,債務(=家賃を払う責任)を果たすことができなくなったとき,債務者(=テナント側)は反対給付を受ける権利(=テナントを使用収益する権利)を失わないとなります。

1項に関して,東日本大震災の際,避難区域に指定されて住むことが出来なくなった賃貸物件の賃料について,不可抗力で物理的に使用・収益が出来なくなったとしてこの条項を適用して家賃の支払いをする必要がないとされている例があります。

それでは,今回の新型コロナウィルスではどうでしょうか。

一般的には,以下のような考え方が出来ようかと思います。

ポイントとしては,新型コロナウィルスによって,直接的に賃貸物件を使用・収益出来なくなったのかどうなのかというところです。
東日本大震災の場合は,避難区域に指定されて物理的に住むことが不可能となってしまいましたが,新型コロナウィルスでは,営業自粛の要請ですから,収益はまだしも「使用」は出来るという状態であることに気をつけなければなりません。

また,緊急事態宣言が出され,実際に営業自粛の対象となる施設なのかというところもポイントです。
営業自粛の対象でなければ,テナントは自らの判断で営業をしていないことになりますので,民法536条1項の規定の適用は難しいと考えられます(つまり,本条2項の適用があることになると思われます)。

他方で,営業自粛の対象(正確に言うと,特措法の休業要請にも段階があるので,その検討も必要です。)であれば,営業をしていると国からの休業要請や指示があり,休業に応じなければ施設名等の公表がされますから,実質的に不可抗力で使用収益が出来ない状態になったと評価する余地があります。但し,先程述べたとおり,収益は難しいにしても,使用自体は可能であることがどのように評価されるかについては,今後の判例の蓄積を待つほかありません。

なお,参考までに,大阪府は,営業自粛の対象業種を以下のサイトでまとめています。

http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku/corona-kinkyuzitai/index.html

以上の次第ですので,営業自粛の対象でなければ,法律上の根拠があるとは言い難そうですし,対象であっても,減額の一定の根拠になりうるという程度で,要検討です。

大事なこと

まず,賃貸借契約は,継続的な契約であり,信頼関係がそのベースにあります。
ですので,大家さんの側もテナント側も,これまでの関係性と,これからの関係性をどうしていきたいのかということもよく考えた上での対応が求められます。

大家側で検討すべきこと

上で述べてきたとおり,基本的には減額に応じるべき根拠は薄いように思えます。

但し,国土交通省からの要請として,不動産関連団体を通じて,賃貸物件で事業を営む事業者に対し,家賃の支払い猶予に応じる等の柔軟な措置の実施の検討を要請がされています。

また,上記のとおり,これまでの関係性やこれからの関係性も考慮しつつ,もちろん,自分の資力や置かれた状況も考えた上で,減額や猶予の打診に応じていくのかをご検討頂けたらと思います。

なお,大家側に関係する支援策としては,国土交通省がまとめてくれていますので,ご参照ください。

https://www.mlit.go.jp/common/001343017.pdf

テナント側で検討すべきこと

上で述べてきたとおり,基本的には減額が認められる根拠は(営業自粛対象業種以外は特に)薄いように思えます。

「大事なこと」で述べたとおり,大家さんとのこれまでの関係性とこれからの関係性を踏まえることが大事です。

他方で,家賃補助に関する国の支援策がまとまりそうです。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020050700926&g=pol
(時事通信社 2020年5月7日記事)

このような支援策等を利用しつつ,それまでの大家さんとの関係性も踏まえて減額・猶予の打診をするか否かをご判断下さい。

なお,テナント向けの支援策としては,今のところは,持続化給付金と,実質無利子・無担保・元本返済の据置での融資だけのように思えます。

https://www.mlit.go.jp/common/001342199.pdf

テナント向けの支援としては心もとないと感じてしまうかもしれませんが,新規感染者数も減少してきておりますので,上記を踏まえて,家賃の減額や猶予の打診を行うかも含めてご検討頂けたらと思います。

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